皆さんこんにちは!
森工業、更新担当の中西です。
プライマーは“魔法の糊”ではありません。 下地と主防水の“通訳”であり、付着・密着・バリア・封止・濡れ性の最適化という“機能設計”そのもの。もう一方の主役は含水率。水を抱えた下地に膜を被せれば、膨れ・白化・剥離は必然です。本回は、下地別のプライマー選定、塗布量・オープンタイム、露点・含水の管理を数値でマネジメントする方法を解説します。
1. プライマーの役割を5分で整理
• 付着向上(アンカー効果):微細孔へ浸透→機械的かみ込みを作る。
• 表面改質(濡れ性UP):表面エネルギーを上げ、主材が“馴染む”状態に。
• バリア・封止:アルカリ・可塑剤・残留塩分・粉塵を遮断し界面トラブルを抑制。
• 含水・気泡対策:ポリマーで気泡止め、通気緩衝工法では水蒸気逃げ道を確保。
• 接着界面の均質化:下地ムラ(吸い込み差)を均すことで膜厚の安定につなげる。
2. 下地別:プライマー選定の実務
2-1. コンクリート/モルタル(RC・押え)
• 課題:アルカリ・レイタンス・含水・吸い込み差。
• 指針:
o エポキシ系(溶剤 or 水性)で高付着・封止。ピンホール多い場合は下地調整材併用。
o 含水が高め→湿潤面対応型や通気緩衝用プライマーを選ぶ。
o 仕上げがウレタン塗膜の場合は同系統の相性を優先。
2-2. ALC・軽量気泡コンクリート
• 課題:吸水率が高く含水変動が大きい。
• 指針:
o 浸透シーラー(アクリル/シラン系)で吸い込みを均質化。
o 水分を抱えやすいので晴天連続日を確保。端部は可とう型シールで動きに追随。️
2-3. 金属(亜鉛メッキ・ステンレス・アルミ)
• 課題:表面エネルギー低く、酸化膜や油分が付着。
• 指針:
o 脱脂(アルカリ洗浄→水洗→乾燥)→目荒し(#120〜240)→金属用プライマー(変性エポ・変性ウレ)。
o 亜鉛メッキは白錆除去を徹底。端部は二次防水の重ねで金物頼みを避ける。
2-4. 木質・合板・ケイカル
• 課題:吸い込みが強く、寸法変化が大きい。
• 指針:
o 浸透型シーラー+可とう型プライマーで動きに耐える界面を形成。
o 端面(木口)は多め塗りで吸い込み差を消す。
2-5. 旧防水層(ウレタン・FRP・塩ビ・TPO・ゴム)
• 課題:可塑剤移行・表面劣化・相溶性。
• 指針:
o 同系統プライマーが基本。塩ビ→可塑剤ブロック型、TPO→専用接着、FRP→アセトン拭き+サンディング→樹脂プライマー。
o 露出ゴムは研磨+専用プライマーで界面を作る。
2-6. タイル・石材
• 課題:吸水ムラ・表面光沢・目地の“線”が水みちに。
• 指針:
o サンディング→アルカリ洗浄→水洗→乾燥。
o エポキシ系シーラーで封止し、塗膜系やシートのブリッジを作る。
3. 含水率・露点の管理—Go/No-Goを数値で
• 含水率の目安(相対比較の実務例):
o コンクリート/モルタル:表層5%以下相当を目標(機器ごとの換算に注意)。
o ALC:乾燥傾向が続く状態で施工(数値は機器差が大)。
o 木質:12〜15%以下相当が目安。
• 測り方:
o 非破壊式で面の分布→ピン式で要所の深部傾向を見る“二段構え”。
o 同一位置を時系列で記録し、下降トレンドを確認。
• 露点管理:
o 表面温度と気温・湿度から露点差3℃以上を確保(結露・白化防止)。
o 早朝・夕方の結露時間帯は避ける。温湿度計は常時見える位置に。
• 天気の読み:
o 雨上がり直後/北面日陰は乾きが遅い。
o 風は乾燥を助けるが、ゴミ付着・塵巻き込みに注意。
4. 塗布量・オープンタイム・膜厚管理
• 塗布量:メーカー規定○○g/㎡を厳守。多過ぎ=乾かない/少な過ぎ=付着不足。
• WFT(湿膜厚)ゲージで塗り切りを確認。均一に塗り逃しゼロ。
• オープンタイム:早過ぎ→濡れ性不足、遅過ぎ→再付着不良。指触乾燥〜半硬化の間に主材を被せる設計を。
• 二度塗り:吸い込みが強い下地はシーラー→プライマーの二段も選択肢。※溶剤攻撃に注意。
• 攪拌・可使時間:
o 秤量・撹拌時間をタイマーで管理。
o インダクションタイム(反応時間)が必要な二液型は待ち時間を守る。⏳
5. 施工手順(標準フロー)
1. 清掃・脱脂:粉塵・油膜・離型剤を除去。
2. 含水・温湿度・露点差の記録。
3. 試験塗り:1㎡程度で乾燥と付着の挙動を確認。
4. 本塗布:端部・入隅・立上りは先行塗り+面塗り。
5. 乾燥管理:人・埃の侵入防止、鳥糞・虫の混入対策。
6. 合否判定:指触→テープテスト→必要に応じプルオフ試験。
6. 互換性・化学的トラブルの未然防止 ⚠️
• 可塑剤移行(塩ビ系):バリア型プライマーで遮断、または同系シート溶着に切替。
• 溶剤攻撃:旧塗膜を軟化・溶解させない配合を選定。事前に隅でパッチテスト。
• アルカリ焼け:モルタル新設はアルカリ強い→封止型+十分な養生。
• 紫外線・熱:夏場の黒色下地は表面温60℃超も。朝夕へシフト。
7. 季節別の運用術
• 梅雨〜夏:
o 短時間豪雨→急乾→結露の気象ローテに注意。
o 風通しを活かしつつ、虫・綿毛混入対策。
• 秋:
o 乾燥しやすいが落ち葉で汚染。清掃頻度UP。
• 冬:
o 露点差が小さく結露しやすい。日当たりの良い時間帯に限定。
o 加温は火気・一酸化炭素・延焼対策を最優先。
8. トラブル事例とリカバリー
• 白化(ブラッシング):湿潤・露点未管理。→ 再研磨→再プライム。
• 膨れ:含水閉じ込め・ガス膨張。→ 脱気筒増設/通気層見直し。
• ベタつき:過剰塗布・溶剤残り。→ 希釈・塗布量見直し、乾燥促進。
• ピンホール:下地気泡・吸い込み差。→ 気泡止めプライマー/下地調整材追加。
• 付着不良:脱脂不足・可塑剤移行。→ 化学洗浄→バリア型に切替。
9. 現場5分チェックリスト ✅
☐ 清掃・脱脂は手で触って滑らないレベルまで
☐ 含水・温湿度・表面温・露点差3℃以上
☐ プライマーの種類・希釈・塗布量・WFTを確認
☐ オープンタイムの目安と貼付け/塗り重ね時間
☐ 端部・入隅・立上りの先行処理
☐ パッチテストの結果写真を残す
☐ 通気緩衝の場合脱気計画と配置
☐ 施工後の手触り・テープテストで即時合否
10. ケーススタディ
10-1. RC屋上×通気緩衝ウレタン
• 課題:梅雨明け直後で含水高め。過去に膨れ発生。
• 対応:通気緩衝用プライマー+脱気筒ピッチ短縮。WFTゲージで湿膜80μm(例)管理。朝夕施工。
• 結果:夏期の表面温上昇時も膨れなし。引渡し前の散水→圧抜け良好で安定。
10-2. 既存FRPベランダの再防水
• 課題:表面チョーキング・ヘアクラック。溶剤攻撃の懸念。
• 対応:#120サンディング→アセトン拭き→樹脂プライマー。端部はガラスマット増張り。
• 結果:引張付着試験OK。塗膜系仕上げで鏡面に近い平滑を実現。✨
10-3. 露出塩ビシートの上に塗膜
• 課題:可塑剤移行でベタつき・汚染。
• 対応:可塑剤バリア型プライマー+試験塗りで相性確認。オープンタイム短め運用。
• 結果:歩行荷重下でも汚染なし・剥離なし。
10-4. 金属笠木の局所止水
• 課題:ジョイント部からの浸入。油膜と白錆。
• 対応:脱脂→目荒し→金属用プライマー。二面接着でシール。上から端末金物で二重化。
• 結果:台風時も漏水ゼロ。
11. まとめ—“プライマー×含水”を制す者が寿命を伸ばす
プライマーは下地と主材をつなぐ設計そのもの。含水・露点・塗布量・時間という4つの数値を揃え、下地別の相性に沿って試験塗り→本番の順で確実に。これだけで膨れ・白化・剥離の8割は防げます。明日から、WFTゲージ・温湿度計・含水計を“必携三種の神器”にしましょう。
次回予告:「第6回 ウレタン塗膜防水の基礎(通気緩衝/密着)」—工程・膜厚・端末の作り方、ピンホール対策、乾燥・再塗り時間、雨天対応まで“現場の型”を徹底解説します。
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